昼過ぎ
ダウンのロングコートに黒のロングブーツ、おそらくディアスキン(鹿革)の高級手袋をしたマダムが叫んでいる。駅近くの建設現場前で休憩中の作業員にである。なんだなんだおもしろそうだと野次馬根性汚らわしい僕は足音を殺してそそっと近づいて会話を盗み聞く。
「品川区は路上喫煙禁止ですけど? あなたたちのようなルールを守れない人がいるから日本がダメになるのよ!」
「毎日必死こいて働いて誰に迷惑かけてるってんだよ!タバコくらい・・・」
「汚らわしい! 地獄へ落ちろ!」
「だまれババァ! あっち行け!」
「地獄へ落ちろー!」
・・・これは本当に会話なのだろうか。
もし仮に僕が閻魔大魔王だったとして、そしてこの2人が共に地獄へ落ちてきたとしたらどういう判断を下すのが正解なのだろう。
「まぁまぁ2人とも落ち着いて、静粛に。ま、どちらの言い分も分かるんだけどね、どっちもどっちって言うかね。ま、お互い非があるってことで仲良く地獄に落ちようよ。針山地獄で許してあげるからさ」
「なんで私がこんな奴と一緒に地獄に行かなくちゃいけないのよ!」
「そうだ!閻魔さん、俺は何も悪いことはしちゃいねー!毎日必死こいて働いて・・・」
「あー、もううるさい! 早く落ちんかい!!!」スイッチオン!(床の扉が開く)
「あーーーーーれーーーーーー!!!!!!」
針山地獄 同じ境遇に立たされた二人はこうして
恋に落ちた。
なんじゃそりゃ