「はい、ナス炒め定食お待ちどうさま」
店主であろうおじいさんは手をプルプルとふるわせながら、モツ炒め定食を注文した僕の目の前にそれをカタリと置く。左、そして右と他の客に目をやると、左はサバ焼きをアテに冷酒をちびちびやっているジジイと、右は食事を終えてそろそろ帰ろっかと相談しあうジャージのカップル。
どうやら僕で間違いないようだ。
もし、僕が「あ、すいません自分モツ炒めっす」と言えばこのナス炒めはどうなる?
まさか「オッケーそれじゃあ私がいっただっきまーす!」とジジイは言わない。
きっと9割の確率でゴミ箱行きだろう。
せっかく作ったこの料理は僕のたった一言でゴミになる。
携帯で「ナス 栄養」と調べる。
検索・・・主成分は糖質で、ビタミンはA、B1、B2、Cをごく少量含む。抗酸化の作用とともに、血栓ができるのを防いだり、目の疲労を改善する効果。
まぁ、、一人暮らしは野菜が不足しがちだし、な。
しぶしぶぱくぱく・・・
食後
「お会計お願いします」「はいどうも。850円です」
モツ炒めは750円。
おいおい、間違えられた上に値段もナス炒めのほうが高いのかよ。しかし、今さらモツ炒めだったとは、、いえない。「ありがとです、また来ます」と言って店を出た。
帰り道で思う。
僕はいつからこんなに弱くなった?
ここでこの動画を見てもらいたい。
歌っているのは12年前の僕。
そう、18歳の僕は
「おいお前ら!行くぞ!ゲットバックソウルゥー!!」
パンクだった。眉毛を剃り、鋲のついた衣服をまとい、「自分の弱さをぶち殺せ!」などと叫び狂っていた。
それがなんだ、30歳を越えて店員の注文の取り間違いすら訂正することすらできないのか。
おい、松本、今こそ本当の自分を取り戻せ!自分の弱さをぶち殺せ!!そうだろ?
いや、待てよ。ジジイに「モツ炒めだコラァ!!」と叫ぶ姿が本当の自分か?
確かにヤツは注文を聞き間違った。しかしヤツはあんなに手をプルプルとさせながら、しかしそれは芸術と言える熟練の手つきでナス炒めを作り僕の元へ運んできてくれたじゃないか。その行為や姿勢に罪はないはずだ。それを批判することが正義か?いやそんなはずがない!!
つまり、
このままでいい。
弱い自分も本当の自分。